迷子 どこの子?  〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


       




今年の秋は長かったのだか短かったのだか。
残暑が食い込み、なかなか紅葉が始まらず、
そんなずれ込みが尾を引いたか、
いつまでも秋物でいられるような“暖かさ”が続いたものの。
それでもようやっと“秋は終わったなぁ”と思わせるほどの、
しっかりと冬の到来を知らしめる…ような気がする朝になった。
早い時間帯では吐息も白くなり、
陽が昇ってからという登校時刻でも、
そろそろ手套がいるかしら、襟巻きはまだ早い?
…という判断を迫られるほどで。

 「おはようございます。」
 「おはよう。今朝はまた寒うございますねぇ。」
 「本当に。」

こちらの某女学園の場合、
セーラー服という制服は、
ブレザータイプに比すればあんまり重ね着が利かないのでと、
学校指定のシンプル&オーソドックスなデザインのそれながら、
コートを着始めるのも早い方。
カシミアやツィード生地のデザインコートは、
基本、濃色単色の詰まった襟元という仕様。
女生徒の小顔とのバランスもいい丸襟で、
肩口がほのかに丸くふくらんだフェミニンなデザイン。
スリムなシルエットを描くよう、
胸元から裾へかけてという長さの切り替えタックが取られてあり。
前合わせの部分は、
愛らしさが映えるよう、少し大きめのくるみボタンが一番上だけ覗く他は、
ボタンを隠す“重ね”仕様…というのが、一応の“基準”ではあるものの。
そこはやっぱり…と言いますか、
中等部で着ていたコートがまだ着られるのでと、
実をいや、肩を覆うインバネスつきのデザインコートという、
愛らしいデザインの方をあまりに気に入っていた生徒さんがいて。
系列学園のそれだし、物を大事にして何がいけないと、
父兄がねじ込んだ結果、そちらを引き続き着てもいいと容認された途端、
高等部仕様の外套へも、こそりとさりげない改造を加える人が増え。
しまいにゃ、誂え先の洋品店でも“〜タイプ”と呼び分けるほどに、
定番のパターン化した代物が出来ていたほど。

 「…と聞いておりますが。」

そんな経緯があったとか無かったとかいうお話、
実話かどうかは知りませんがと前おいて披露して下さってから。
大掛かりな変更や改造はともかくとして、
生地を高価なものにするとか、
裾の広がりようを専属デザイナーの工夫で、
もっとフェミニンなものになるよう変造するとか。
前の合わせをダブル仕様のスタイリッシュなものにするとか、
袖口のボタンを増やすとか、
丸襟を角襟にする…なんて程度の特別仕様は、
こっそりと誰もが手掛けてもいたそうで…と。
詳しいところを語ってくれたのが、
三人娘らのムーブメント方面への情報担当を自負しておいでの、
赤毛の美少女さんだったりし。

 「センスのあるもの、品のあるものという範疇内なので、
  まま、学園側も大目に見ているのでしょうね。」

これが、超ミニに改造したスカートに合わせて丈を詰めるとか、
今年の流行だからと、やたらファーを縫い付けるとか。
ポップな缶バッチやピンバッチを、
勲章みたいに胸元へつけまくる…などという、
そういった見苦しい“工夫”をする生徒はさすがにいないので。
時折 風紀検査がある折だけは、

 『あらあら、ここはお仕立てミスかしら?』

などというさりげない指摘がありの、
気づいて無い訳ではないのですよという仄めかしがあるものの、
だからといって、さほどお堅い指示や指導は下されない。
目に余るような場合…が起きないからであり、

 「中等部ではたまに、
  リボンやスパングルでのデコを、
  こっそり裏地へ縫い付けるのが流行っていたそうですが。」

朝一番の清かな風に晒されて、
ふわふかな頬を赤くしたひなげしさんこと平八が、
美術部の持ち上がり組の人から訊いたというのを持ち出せば、
こちらさんは鼻の頭を赤くした紅バラさんこと久蔵が、
傍らで“うん”と厳かに頷いて見せ。

 「お姉様とお揃い。」
 「………おっvv」

紅バラさんの零した、手短かなれど奥の深い一言へ。

 「そうか、
  そういう形の流行ならば、
  なかなか廃れないってものですよねぇ。」

ましてや、すぐにも同じ高校へ進級する身、
当時のコートもそりゃあ大事にするってものですよと。
こちら様は、さらさらの金髪を結んだことで、
剥き出しになったお耳の先が真っ赤な白百合さんこと七郎次が、
感慨深げに頷いた傍らから、

 「久蔵殿にも、
  ご本人は知らねどながら、
  お揃いにしたがってた“妹さん”たちは沢山いたんじゃないの?」

平八がこそっと囁いて来たのへと、

 「〜〜〜。(う〜〜ん)」

厭味のない朗らかな訊かれようだったせいだろう、
特に引っ掛かることもないまま、
どうだったかなぁと思い出そうとするところが、
見かけの鋭角にして凄烈そうな印象と裏腹、
実に素直な三木さんチのお嬢様だったりし。

 「おはようございます、白百合のお姉様。」
 「ごきげんよう、ひなげしちゃん。」
 「お寒いですわね。」
 「ええ本当に。」
 「紅バラ様、おはようございます。」
 「ごきげんよう。」

学園へと近づくにつれ、飛び交うご挨拶も増え。
3人だけでの会話も寸断されて、
他のお嬢様たちの群れの中へと、
同化するよに、あっさり交ざり混んでしまった彼女らで。
多少の冒険やら自己主張らしき、制服やコートへの手心も、
一人だけをよくよく見つめ続けてでもいなければ、
その差異なんてなかなか気づきはしないもの。

 「? 〜〜?」
 「え? そうでもない?」

久蔵殿、何か具体的に思い当たるものでもあるのでしょうか?
いきなり昇降口で立ち止まっては、後続の人の迷惑ですよ?
……ということで、さかさか足早に歩き始めつつ、
教室までの道すがら、さりげない小声での会話を続ければ、

 「兵庫せんせえは AK○48の某さんを、
  群舞やモブの中からでもちゃんと素早く見分けちゃう?」

 「だから、それは……。(むがもご…)」

熱心なファンだからと言いかかったのを先読みしてだろ、
横手から素早く伸びた白い手がひなげしさんのお口を塞ぎ、

 「そんな健気なことを言う前に、
  同世代の他所の女の子より自分を見てろって詰め寄らないと。」

おいおい他人のことが言えるのか、シチさん…と、
思わずツッコミたくなった平八も、
そんな個人情報(しかも特急クラス)を人目のあるところで言う訳には行かず。
お嬢様にはあるまじき、ヘッドロック状態の腕を緩めてもらったのを幸いに、

 「ぷは…。そうそう、そうだよ?」

あくまでも紅バラさんへの忠告という格好、励ましもかねて便乗すれば。

 「〜〜〜〜。///////」

凛とした面差しや、すらりとした肢体に冴えた物腰、と。
濃色のシックなコートのせいもあって、
シャープな印象が当社比38%ほど上がっているにもかかわらず、
戸惑うように視線を泳がせ、心許ないお顔を見せた久蔵殿。
口許をうにむにと震わせてから、片手をポケットへ突っ込んでの、
携帯を取り出して…例の手で“囁いて”の曰く。

 『だってその子って、
  ちょっと背が高くってクールな印象がして、あのその…。』

 「久蔵殿に印象がかぶるから気に入ってるって?」
 「……………ほほぉ。」

こういうのも“惚気”でしょうかねと、
白百合さんの手の中で開かれた、モバイルの液晶画面、
頬をくっつけ合うように覗き込んだ二人が、
揃って呆れたのは…言うまでもなかったのでありました。



 何だか途中で話が逸れましたが。
 名士名家のご令嬢だという肩書はともかく、
 一見しただけであれば、
 周囲の同い年の女生徒たちとも特に極端には変わりもない、
 愛らしくも瑞々しい、ごくごく一般の女子高生の三人娘だが。
 これまでのほんの1年分の日常からでさえ、
 様々な騒動を見事(?)掻いくぐっておいでの頼もしさ。
 他愛ないお話も扱ってはおりますが、
 はてさて、こたびはどんな流れとなるのやら……。




       ◇◇◇



 意味深な文言を並べましたが、
 あまりに短かった導入部でしたので、もちょっとだけ。


師走、12月という月は、
大人へ近づけば近づくほどに、
あっと言う間という感の強くなる慌ただしい月であり。
しかもしかも期末考査の真っ只中とあっては、
寄り道もお喋りも、
どこかでセーブがかかっていたお嬢様がただったものの、

 「やぁっと終わった。」
 「〜〜〜〜。」
 「最後に地理と古典って、存外キツイですよね。」

旧式洋風建築物のこれも特徴、
ずんと高い天井に合わせてだろう、
こちらもなかなかに間口の高い窓から降り落ちる陽に赤毛を温められたか。
このまま寝てしまいたいですようと、机へ突っ伏す平八へ、
前後の席から、そちら様は金という淡色の髪を陽射しにけぶらせ、
仲のいいお友達二人が同感だとの吐息交じり、
やれやれというお声を掛けて来て。

 「それでもまあ、これで後はクリスマスを待つばかり〜。」
 「そうそう♪」

一応及第点はキープ出来そうということか。
補習への危惧なぞ欠片も見せず、
安穏としたお声を取り交わし。
カバンへ教科書を詰め直すやら、
教室の後ろ、冬場に大活躍のコートラックから、
その場での脱ぎ着は混み合うのでと、自分の外套を持って来るやら。

 「草野さん、さようなら。」
 「林田さん、ごきげんよう。」
 「よいお年を。」
 「ヘイさん、それはまだ早い。」
 「三木様、クリスマス・ミサまでごきげんよう。」
 「……♪(頷)」

他のクラスメートの皆様が、
先に帰りがてらお声をかけるのへ、如才なく(?)愛想を返しつつ、
こちら様もまた、手際よく帰り支度に取り掛かるお嬢様がたで。
さてと、立ち上がったその中で、

 「………、…。」

不意に久蔵が、何かしら思い出したか、判りやすくもお顔を上げたので、
残りの二人がはてと小首を傾げて見せる。

 「どしました、久蔵殿。」
 「部室への忘れ物ですか?」

彼女が所属するコーラス部は、
終業式も兼ねたクリスマスミサで賛美歌を歌うこととなっており、
伴奏要員の久蔵もまた、試験のぎりぎり前日まで、
何を演奏するのかといういう打ち合わせにと、
昼休みに呼び出されたりしてもおり。
その折に渡された楽譜でも忘れて来たのかと、
思い当たりを訊いたひなげしさんへ、

 「〜〜〜、」

そうじゃないとかぶりを振ってから、

 「シスター・ガルシア。」

ぼそりと口にした一言だけで、
ああそっかと、すぐさま事情が通じる辺りが、
さすが絆の深いお友達同士。

 「何か連絡が入っているかも知れませんよね。」
 「そういや、くうちゃんはお元気なの?」
 「……vv(頷、頷)」

誰か様がずっとずっと学園祭へと不平をこぼしておいでだったのと同じよに、
今度は白百合さんが“中止になればいい”と言い続けていたマラソン大会も、
打って変わっての好天の中、特に波乱もないまま無事に執り行われ。
その最中に、彼女らへと縁が出来た存在があり。
もしやして飼い主がおいでの迷子なら、
きっと心配なさってあちこち探しておいでかも。
けれど、だからといって寒空の下へ放置する訳にもいかずで、

 『シチのところには イオが。』
 『それはそうだけど…。』
 『ウチはゴロさんが一日中いるにはいますが、
  だからって構ってやれる状態じゃありませんしね。』

そんな風に諸事情を刷り合わせた結果、
久蔵の手元に預かった小さなお客様への、
何か問い合わせはなかったものかと。
直接の連絡先としたシスターのところへ、
訊きに行かねばという大切なこと、
今の今までうっかり忘れ去っていた三木さんチのお嬢様。
しまった、今日を逃すとしばらくは学校には出て来ないんだと、
その点をドキドキしたらしく胸を押さえる彼女へと、

 「うっかり屋さんですね。」
 「なんの、くうちゃんを家族同然としておいでなのでしょうよ。」

ほのぼのとした感慨を零し合った残りのお二人。
それでは、教員室へ向かいますかと、
朝と同じくコート姿になっての連れ立って、
厳かな深色の板張りに漆喰の壁という古風な作りのお廊下、
軽やかに駆け出した三人娘であったのだが。


  さぁて、一体何が待ち受けているのやら。






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*迷子に縁のあり過ぎなサイトですが、
 今回の迷子ちゃんは
 いつもの“あの子”ではありませんので、念のため。
(苦笑)
 そこまで重なると話がややこしくなりますので…。


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